メーカー:ケイアミューズメントリース
発売日:1986年11月26日
ジャンル:アクションシューティング
(前回の記事はこちら)
始めに言っておかなければならない。
このゲームはいわゆる「クソゲー」扱いをされている。
SNK(2001年倒産)と言えば今でこそ対戦格闘ゲームの印象が強いが、昔は様々なジャンルのゲームを作っていたのである。
改めてSNK関連のゲームの歴史を見てみると、タイトーやカプコンからの影響を強く感じる。
その中の一つがこの「怒」である。
元々1986年にアーケード版が発売され、それと同年の11月にファミコン版がリリースされたのであるが、このアーケード版の操作方法こそがファミコンに移植するにあたっての大きな壁となった。
アーケード版は、「ループレバー」という特殊なレバーを使ってプレイするゲームだったのである。
この「ループレバー」という操作方法の源流については、まずタイトーが1983年に発売した「フロントライン」から語らなければなるまい。
「フロントライン」は青い軍服を着た主人公を操り、拳銃と手榴弾を用いて敵の歩兵や戦車を倒していくアクションシューティングである。
敵地には主人公が乗れる戦車も置かれており、それに乗ればもっと高速にもっと強力な攻撃が出来る。
爆発寸前の戦車から逃れるために脱出するシステムもあり、なかなかに爽快感のある白兵戦ゲームである。
と書くと非常に簡単そうなゲームに思えるが、実はこのフロントラインも操作方法が特殊なのである。
自機の移動こそ八方向レバーだが、フロントラインでは拳銃や手榴弾を投げる角度をかえることができる。
その時に「ダイヤルスイッチ」と言う特殊な部品を使うのだ。
ダイヤルスイッチは円形のツマミとボタンを合わせた誠に奇妙な部品であり、一言で言うと「つまみを捻りながら拳銃を向ける方向を変え、それを押し込むと拳銃を撃つ」ことが出来る代物だったらしい。

だったらしい、というのも筆者が平成生まれであり、生まれてこの方そのような特殊なレバーを見たことがないからであるが……。かなり特殊な部品だと思われるので、今使いたいとなると自作するしか無さそうな気がする。
私はWindowsに移植されたフロントライン(アルペンスキーとバルーンボンバーとのカップリングだ)を昔所持しておりプレイしたことがあるが、その際にはキーボードに射撃角度変更キーが割り当てられていた。
その状態でも、「上下左右から現れる敵の射撃から逃げながら、拳銃の方向を変えて撃つ」ということをするだけでパニックになったのだから、ダイヤルスイッチを初めて触れた人など馴れるまでに何度もコインをつぎ込まなければならなかったのではないだろうか?
だが、一旦操作に慣れてしまえばかなり楽しいので、私もWindows版をよくキャッキャッとプレイしていた。
今回取り上げる「怒」は、言ってしまえばフロントラインパワーアップ版とも言えるアクションシューティングである。
銃と手榴弾を用いて様々なタイプの敵を倒していくし、例によって敵地に主人公が乗れる戦車もある。
その他、赤や緑の兵を倒すと様々なアイテムが貰え、特に「B」アイテムなどは手榴弾や戦車の砲弾を発射するとすごい爆風が発生し、それによって敵を一網打尽にすることができるため、かなりの爽快感を味わえる。「怒」の一番のウリと言ってもいい部分だろう。
色々な罠も仕掛けられていたりするのでなかなかに油断できないゲームである。難易度はすごく高い。
さて、アーケード版「怒」で使われている問題の「ループレバー」であるが、こちらはフロントラインが射撃ボタンに射撃角度変更を兼任させたのとは違い、自機移動に使うレバーに射撃角度変更機能を付けたものである。
つまり、射撃角度を変えたいときはレバーをひねり、自機を移動させたい時にはレバーを倒す。左手に自機の移動をすべて任せるというのだから、考え的には理にかなっているように思える。

例によって平成生まれの自分はループレバーそのものを見たことすら無いが、ダイヤルスイッチよりはまだ操作しやすそうな気もする。
ダイヤルスイッチよりも余計に奇異な見た目をしている上、SNKも倒産しているので使うには自作するしかなさそうだ。
ただ、これはある程度特殊なコントローラが許容されるアーケード版でこそ許されるわけで、十字キーとA・Bボタンしかないファミコンではどうしても移植の際に問題が出てきてしまう。
まず「フロントライン」がそれをどう解決したか、だ。1985年に発売されたファミコン版フロントラインは、十字キーを押すとその方向へ移動しつつ拳銃も向けるようになった。
右に移動すれば右に拳銃を向け、左に移動すれば左に拳銃を向け、と言った具合であるが、アーケード版では出来た「拳銃を前に向けながら後退」が出来なくなったことは、プレイヤー的にも「なんか違う」と思わせる原因となった。
ただ、同時期に発売されたカプコンのアーケードゲーム「戦場の狼」では最初から同等の操作方法とっていたので、馴れさえすれば割とどうにでもなる変更点であった。
(厳密に言えば、戦場の狼の場合レバー斜め入力時とニュートラル時での弾道が変わるよう工夫されているところが違う)
問題は「怒」である。フロントラインは射撃角度こそ決めづらいものの、きちんと敵の弾を避けることが出来る。だがこの怒では、敵の弾を避けようにも自機の動きが鈍重でなかなかに厳しい状況に追い込まれる。
何故か。それは十字キーにループレバーの機能を全て詰め込もうとしたからだ。
実際に「怒」を持っている方は、手元のファミコンにそれをさして電源を入れていただきたい。そしてスタートボタンを押そう。
飛行機が墜落するいつものデモシーン!そして現れる我らがラルフ!そこで試しに押していただきたい。十字キーの下をだ!
貴方が誤って「フロントライン」や「戦場の狼」をファミコンに差していないならば、後退するどころか銃を右斜め上に向けて少し前進したはずだ。

この挙動こそが、ファミコン版「怒」がクソゲー扱いされてしまっているゆえんなのである。
方向キーを一回押す毎に、その方向へ22.5度づつ射撃方向が変更される。そして方向キーと射撃方向が一致した場合にのみ自機は移動する。
よって、前を向いている状態から後ろへ移動しようと思おうものなら、その場で主人公が体を反転させる間のタイムラグが大きな問題となってくるのだ。
「銃を前に向けながら後退ができない」のはファミコン版フロントラインと同等なのだが、このタイムラグが思いの外長く「主人公の移動が鈍重」というイメージをいっそう大きくしている。
背後に敵が現れるだけで割と本気で逃げ惑うことしかできないのである。
ただし戦車に乗ると事情が違ってくる。戦車の乗っている時はBボタンを押しながら方向キーを押すとその方向に砲塔を向けることが出来る。
歩兵であれば当たるだけで倒せる上に、砲弾は「B」アイテムをとっていれば爆裂するのでアーケード版と同じ爽快感が味わえる。

ただし、戦車から降りるときは完全に同時ではなく「Aボタンを押しながらBボタン」をしないと戦車の自爆ボタンが押されてしまう可能性があるので要注意だ。
でも実際にはA・B同時押しや「Bボタンを押しながらAボタン」をしても普通に降りられる時もある。
説明書が無いので何がどういうアレで自爆するのかが分からない。
戦車に乗っている間はまだ安心だが、戦車では進めない河を渡る場面がどうしても鬼門になる。
そこをどう乗り越えていくかを考えるのが、このゲームの面倒なところであり楽しいところでもある。
その他、ファミコン版「怒」ではアーケード版とはかなりの部分で違いがある。
まず、ファミコンの性能上の問題を解決するため、一度に出てくる敵キャラの数が制限されている。
たくさんの兵士がわらわら集まってくるアーケード版からすると寂しく思えるが、操作性が操作性なのでこれ以上敵キャラが増えるとプレイするどころでは無い。
というより、敵が少なくなっていても敵の配置を覚えない限り1面クリアすらできない難易度なのでそこは安心していただきたい。
その代わり、マップがアーケード版と比べてかなり長くなっているので末永く楽しめるのはポイントだ。1面クリアだけでアーケード版の7割くらいプレイしたぐらいの長さはあるように思える。
ちなみに残機が無くなりゲームオーバーになった後、GAME OVERの文字が表示されるまで長い時間がある。
その間に「A・B・B・A」の順番でボタンを押すとその場からコンティニューが可能だ。回数制限は無い。
まずはコンティニューを使いまくり先まで進んでみて、それからどのように攻略していくかを考えていくのが精神衛生上もいいだろう。

個人的な結論としては、操作性という点では擁護できないゲームであるが、アーケード版の爽快感をできる限り表現しようとしているところは評価できる。
ただ、「戦車に乗る」というだけの過程でも、最初のうちは操作性の関係上、何回かゲームオーバーにならないと厳しいので、そこあたりでクソゲー認定されてしまっているのだと思う。
難易度に関してはそもそものアーケード版の怒からしてノーコンティニュークリア前提で作られたゲームでないのだから、「完全クリアを目的とせずどこまでいけるか腕試しをしてみる」ぐらいの感覚で遊べばかなり楽しいのでオススメだ。
でも、モヒカン野郎(歩兵状態だと手榴弾2発でしか倒せない)だけは勘弁してください……。
余談になるが、この手の白兵戦ゲームは後々も多数発売されているが、射撃方向に関しては「ボタンを押している時のみ射撃方向固定&オート連射」という形を取っているゲームが割と多いようだ。
細かい角度の変更が必要な「怒」にはあまり向かなそうな気もするが、とんだコロンブスの卵もあったものである。

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